古典芸能入門 » 2010 » 9 月

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古典芸能入門

歌舞伎、文楽、落語に能、クラシックコンサートといわれると、なんだか敷居が高いと思っている方もいるでしょう。 でも歌舞伎にしても文楽にしても昔は庶民の娯楽でした。芸が芸能になり芸術になってしまうともはや文化の領域で自分とは関係ない世界のものと思ってしまったら人生の楽しみは半減します。 このコラムは観客歴40年以上という篠原安心院(しのはらあじむ)さんが、独自の視点で作品を楽しむポイントや役者の話、作品の背景からチケットの買い方、劇場の席を選ぶ方法などがわかる古典芸能をすんなり楽しむためのポイントを優しく親切に教えてくれるコラムです。 安心院さんの厳しくかつ軽妙な文章を読めば、いつしかあなたも古典芸能通になれます。お楽しみに!
2010 年 9 月 のアーカイブ

Vol.167 文楽  「 三十三間堂棟由来 《一》 」

2010年9月19日(日)

 前回の芦屋道満の折に、書いて置くべきであったのですが、忘れてしまいましので、今回最初にご紹介申し上げて置きます。それは、以前に幾つか、歌舞伎・文楽関連で個別の演目のご紹介を致した事があると言う点です。従いまして、これら都合四つの演目に関しましては、当面個別のご紹介を致しませんので、ご不審と思わないで下さい。むしろ以前の記述を、当該の年月日から検索なさって、お読み頂きたいのです。(このページの右の下にある欄「月別バックナンバー」で、当該の年月日を探してクリックすると出てまいります)。

 

その四つの演目と、紹介記事の在り処は、以下の通りです。

 

・    勧進帳 これはご存知の通り歌舞伎の大人気の出し物です。初演は幕末でして、7代目の団十郎と3代目の菊五郎でした。この歌舞伎の人気振りから、文楽の方へも逆輸入され、名人の初代栄三が練り上げ、今も時折取り上げられます。この勧進帳のご紹介は、

     07年4月12日の、Vol.6.にて取り上げて居ります。

 

・    三大名作 1746年から毎年一本ずつ、竹田出雲・並木千柳等の手で、今日三大名作と呼ばれる人気の出し物が書かれます。人形浄瑠璃で大当たりを取り、直ぐに歌舞伎に移されて、両方の舞台で、現在に至る迄度々取り上げられて居るのです。これら三本のご紹介は、

○        義経千本桜 07年5月24日、31日の、Vol.12・13で、

○        菅原伝授手習鑑 07年6月7日、14日の、Vol.14・15で、

○        仮名手本忠臣蔵 07年6月21日、28日の、Vol.16 ・ 17で、

夫々取り上げて居ります。周辺の話題、例えば落語の世界での取り上げられ方等にも触れて居りますので、ご興味をお持ちの方は是非其方の法もご覧になられて頂きたいと存じます。

 

さて、今回の本題に入りましょう。前回に続いて異類婚譚(つまり人間で無いものとの結婚話)になります。「三十三間堂棟由来」は、原題を「祇園女御九重錦」と言う五段続きの時代もので、その中の三段目を中心に、舞台に掛る時の外題を「三十三間堂棟由来」と呼びます。先ずは粗筋のご紹介からです。

 

 昔、紀州の山中に枝を交わして夫婦になった梛(ナギの木)と柳の巨木の夫婦があったが、修業僧の蓮華王坊に「淫らである」と、枝を切られて、仲を裂かれてしまう。さて、時は移り、梛は平太郎に生まれ代わり、蓮華王坊は白河法皇に生まれ変わって居ます。柳は人間に生まれ代われず、柳のままですが、蓮華王坊をその梢で刺し殺し、その梢に彼の頭蓋骨を隠し持ち、風が吹いて木が揺れると骸骨が締め付けられ白河法皇が頭痛に悩む事になります。

 仇討ちの祈願の為に熊野参詣する平太郎が、柳のそばを通り掛かりますと、鷹狩りの鷹の縄が柳に掛って取れず、柳を切ろうとして居ます。平太郎がそれを上手く外し、柳が切られるのを防ぎます。柳は昔の相手でこの度は命の恩人である平太郎と一緒になりたくて、その精がお柳に姿を変え、柳のそばの茶屋に働いていると、通りかかった白河法皇が襲われ、平太郎とお柳がこれを救い、これが縁で二人は、又この世で、今度は人間の姿で、夫婦となります。

 

 この後が、人気の場面「平太郎住み家」になります。それは次回に。

posted by 篠原安心院 at 08:44PM
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Vol.166 文楽・歌舞伎  「 芦屋道満大内鑑 《二》 」

2010年9月11日(土)

前回、この演目の、文楽での上演時の床本や筋書きを参考に、大体の粗筋を見て見ました。今回は、この出し物に関しての、幾つかのトピックをご紹介致しましょう。

 

・    考えて見ますと、この外題「芦屋道満大内鑑」は、もう少し丁寧に言えば「芦屋道満は宮中に仕える臣下の手本」と言う意味になりますが、ご紹介した安部保名関連の話では、どうもそんな事にはなりません。実は、故加茂天文博士の妻の兄の娘の連れ合いが芦屋道満なのです。それで、この加茂博士の女房と義理の兄の二人は、道満に天文博士を継がせるべく姦計を弄します。榊さんが持って居る秘伝の本を盗んで隠す等です。榊の前が自死し保名が正気を失いますから、一瞬は彼らの目論見通りになりそうですが、序段の最後に与勘平に依り故博士の妻は成敗されますし、経緯を知った道満は、三段目に於いて妻の父(故加茂博士の義理の兄)を成敗し、秘書を保名へ返す事を決めます。四段目の二人奴の段の前に、保名と葛の葉姫と童子の三人が道満に会います。その時件の秘書を保名に返します、保名はこれを童子に与えます。童子の優れた才覚に驚いた道満は、“清明”なる名を贈ります。こうして、安部清明の陰陽師・天文博士への道が約束されるのです。こう言う風に全段を通しますと外題も判るのですが、どうも話に親殺しが噛みますので、道満関連の筋が省かれるのが通例でして、そうすると外題が判らなくなるのですね。

 

・    保名。前回ご説明しました様に、「保名物狂いの段」は、恋人榊さんの小袖を手に野原の中を彷徨しますが、そんなに長い事では無く、葛の葉姫が出てきたり、石川悪者が暴れたり、狐が飛び出したりと、中々忙しい段になって居ます。この出始めの“物狂い”の処だけを取り出して、清元の語りに乗って、情緒纏綿と物狂いだけを演じるのが、歌舞伎の清元舞踊「保名」です。富元から分かれた清元の出世作とも言われ、三代目菊五郎の初演で化政期の名作とされます。明治に九代目団十郎が、更に大正期に六代目菊五郎が、夫々洗い直して人気曲となり、現在でも単独で良く上演されて居ます。

 

・    二人葛の葉。四段目は、葛の葉姫と狐葛の葉と二人の葛の葉が出て来ます。歌舞伎でも大変に人気の一幕となって居り、この段だけ実に頻繁に上演されます。その最大の理由は、女形にとって為所が沢山あるからなのです。先ずは、この二役を一人で演じます。同じ役者ですから似て居るのは大丈夫ですが、でも例えば衣装が違います(片方はお姫様の装束で今一方は女房の形です)。又、台詞回しも当然に違うのです。これを早変りで演じ分ける訳です。文楽ですと、同じ首(かしら)の人形を二体用意して、違う遣い手が演じますから、早変りの必要は全く無いのです。又、段切りでは、童子を抱えたまま、障子に例の歌(恋しくばの歌)を、子供をあやしながら、左手で書いたり、裏文字で書いたり、はては筆を口に咥えて書いたりします。切羽詰った母狐の真情を、このケレンで表現するのです。人形の方は、抱えた子をはたと落としてフイと消えます、直後に狐が出てきまして、二・三度うろうろしてこれも消えるのです。この場は、両方ご覧になると感興尽きぬ感じがすると思います。

 

・    信田の森で。恋しくば、信田迄会いに来てと歌に残しながら、舞台上では会いません。観客としては、何と無く気が抜けた感じになります。実は、子別れの後に「蘭菊の乱れ」と名付けられた短い場がありまして、景事的(舞踊の要素の多い)場面となって居そうです。この場は、狐葛の葉の一人舞台で、浄瑠璃に乗って、後ろ髪を引かれつつ帰る様が描かれます。その後に、道満と保名・葛の葉姫・童子の三人が出会う場面が挟まり、話は大円団に向います。これ等の省かれる場面で、どうやら償われて居そうです。

 

・    三人遣い。この出し物は、史上初めて三人遣いの人形が出現した事でも、記憶されて居ます。二人奴の場で、与勘平と野勘平の二人が大活躍しますが、最後に、二人共上半身裸になり、肉襦袢を着たいわば縫いぐるみの形になります。そして、童子と葛の葉姫の乗った駕籠を二人が片手づつで持ち上げます。この場の奴の姿のために三人遣いが工夫されたのだろうと思います。その為か、この場は初演時から人気の場となって居ります。

posted by 篠原安心院 at 11:24AM
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Vol.165 文楽・歌舞伎  「 芦屋道満大内鑑  《一》 」

2010年9月2日(木)

 古典音楽の個別の曲のご紹介をバッハから始めましたが、文楽・歌舞伎の方面の個別の演目のご紹介は、「芦屋道満」から始めましょうか。

 

 この演目は、1734年の竹本座初演、作者は竹田出雲です。初演を語ったのは、二代目義大夫(政大夫)で、伝えられる処に依れば小音であったが、深く情を語るのに抜きん出て居たと在りますから、多分大変に印象的だったものと思います。時代物でありまして、定法の五段構成となって居ます。勿論、人形芝居の当りを見て、歌舞伎に移され今日に至る迄歌舞伎でも人気の出し物となって居ます。粗筋を、文楽で上演される構成に沿って説明しましょう。

 

初段・世にも不思議な天変が観測され、何だろうとの議論が宮中でなされます。天文博士の加茂某が急逝した後ですので、娘の榊の前が呼ばれます。彼女は、自分の知識など何にもなら無いから、家に伝わる秘伝の書を、父の高弟の芦屋道満か安部保名に伝えたいと言います。籤で決める事になります。この高弟の二人に夫々支持者が居て暗躍を開始します(大内の段)。

加茂博士の館で、籤を引く段になり、故博士の夫人が件の秘書を隠した上、籤を引くに当り当該の本を出すべきと言います。本が無くなって居る事と、保名からの恋文が見つかり、榊の前は、疑いが集中する中潔白を誓って自害します。恋人の突然の死に、保名は正気を失い外に迷い出ます(加茂館の段)。

 

二段目・物狂った保名は、春の野を、榊の前の小袖を手に彷徨います。其処へ、榊の前に瓜二つの女性が現れ、彼は突如正気に返ります。この女性は、榊の前の妹で葛の葉姫と言い、正気に戻った保名は深い愛情を抱きます。そこへ、葛の葉に横恋慕する石川某が狐を狩りながら現れます。追われた狐を保名は匿います。一緒に葛の葉が居るので、石川は無体に言い寄ります。保名の家来の与勘平が追い散らします。与勘平が葛の葉を送って行った後に、戻って来た石川に保名は散々に痛めつけられます。今度は葛の葉が出て来て優しく介抱をします(保名物狂いの段)。

 

四段目・行き掛り上都へ帰れない保名は、それから阿倍野に、助けてくれた葛の葉と隠れ住んで6年、男の子(安部童子)も生まれ育って居ます。葛の葉姫の父親である庄司某(榊の前の父でもある)は、石川の姦計に嵌り、領地を失い苦労の年月を重ねます。娘の葛の葉も、保名恋しさに病勝ち、そんな中やっと保名の居所を知り、6年前の約束を頼りに、親子三人で阿倍野を訪れます。やっと探し尋ねて辿り着きますと、家の中にもう一人葛の葉が居るので、仰天します。丁度帰り着いた保名も、同様に驚嘆します。三人を物置に隠し、何食わぬ顔で保名は家に入り「庄司夫妻に出会った、もう直ぐ来るだろう」と言って奥に入ります。実は、安部童子を生み、6年一緒に暮らしたのは、石川に追われて保名に匿われた狐だったのです。狐葛の葉は、寝ている童子に向って思いの丈を嘆き、今は元居た森に帰ると歌を残し、狐の姿になって姿を消します(葛の葉子別れの段)。

「会いたければ信田の森に来て」との歌が残って居た事から、保名と葛の葉姫と童子の三人は、信田の森に行きます。またまた悪人の石川が邪魔をします。与勘平が大活躍をします。どうも活躍のし過ぎと思いますと、実は狐の仲間の野勘平が一緒になって助けているのでした。こうして、三人は無事に家路に着きます(信田の森二人奴の段)。

 

 以上が、文楽での通例の上演の粗筋となります。お判りの通り、安部保名とその子清明に関わる話になって居ます。安部清明の誕生に関しての伝説が幾つもある中、これはその集大成とも言えるのだと思って居ます。尚、“しのだの森”は、“信太”と書く方が多そうですが、文楽上演時の筋書きに沿い“信田”と致しました。

 

 関連のお話は、次回にご紹介致します。

posted by 篠原安心院 at 09:47PM
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