さて、大分長い間お休みを致しました。この間、東京を留守にしまして、大分大掛かりなセミナーの指導をしたりしておりまして、その為の資料を読んだりノートを整理したりの用意に思わず時間とエネルギーを取られて仕舞い、本欄への書き込みが疎かになって仕舞いました。お詫び申し上げる次第です。どうやら、時間繰りも環境も旧に復しましたので、又、皆さんと古典芸術の沃野への旅を続ける事と致しましょう。
これまで何回か予告を致しました通り、我々の視野の中にある対象の演目を、今度は個別にご紹介しながら、少しずつ前へ進みたいと考えて居ります。その中で、特に説明すべき項目に出会いましたら、当然の事乍ら、これまでと同様の形でご紹介する事も多々あろうかと思っています。
先ずは、何回か古典音楽の分野の名曲のご紹介から手掛けます。誰から始めようか迷いますが、ここは古典音楽の父と謳われるドイツの大作曲家、J・S・バッハから始めます。バッハは、非常に数多くの作品を残して呉れて居ますが、大きく分けると、教会音楽と世俗音楽の二つの分野に分かれます。最初はその世俗音楽の中から、「管弦楽組曲」を取り上げましょう。
「管弦楽組曲」は4曲残って居ます。どうやら作曲された年代が微妙に違いそうですし、作曲された意図と言いますか機会も少し違いそうです。4曲を通じての特徴は、序曲と数曲の舞曲の組み合わせからなって居ると言う点でしょう。楽隊の編成は、今日の感覚から見ますと、室内管弦楽団と言ったやや小さい規模の楽隊により演奏されます。楽器の編成は、4曲で夫々に違いがあります。共通なのは、小規模な弦楽パートと通常の通奏低音部門(チェロ等の低音弦楽器とチェンバロ)で、この上に、第一番ですとオーボエ(2)とファゴット(1)が、第二番ですとフルートが、第三番ですとオーボエ(2)とトランペット(3)にティンパニーが、第四番ですとオーボエ(3)・ファゴット(1)・トランペット(3)・ティンパニーが、と言った具合に加わります。
この4曲の中で多分何方のお耳にも残って居ると思われるのが、第二番のフルートでして、曲を通じて大活躍なのです。高校の時、音楽の時間にこの曲をレコードで聞かして呉れました。中に口笛を吹く奴が居まして、先生がレコードを止めて叱ろうとしながら、極めて正確に吹いて来てましたので、思わず“続けてごらん”といったら、その早い曲を通して口笛で吹き通した豪の者が居ました。その位耳に親しんで居る曲です。また、第三番の“アリア”と呼ばれる部分は後年編曲されて「G線上のアリア」として、独立して演奏される機会が増えた曲です。三番を聞いていて、この曲が始まる時の戦慄的な感激は何回味わっても素敵なものです。
バッハと言いますと、七面倒くさい取り付き難い曲との先入観をお持ちの向きも多いかと思います。彼の得意分野の一つのオルガン曲等から聞き始めますと、そんな印象が勝って仕舞います。ですから、例えばこの組曲辺りから始めて下さい。バッハの実に健康でしかも野太いロマンティシズムが聞えて来ると思います。
演奏は名曲だけに多く残って居ると思われます。少し前の演奏なら、カール・リヒター指揮のミュンヘン・バッハ合奏団のものが標準としてお勧め出来ましょう。この30年程は、各種の古楽(古楽器を使用した演奏)の録音も増えまして、比較なさると興味は尽きません。