古典芸能入門 » 2010 » 5 月

お問い合わせ | 広告出稿






FX業者比較はこちら

資産運用を学ぶにはこちら

古典芸能入門

歌舞伎、文楽、落語に能、クラシックコンサートといわれると、なんだか敷居が高いと思っている方もいるでしょう。 でも歌舞伎にしても文楽にしても昔は庶民の娯楽でした。芸が芸能になり芸術になってしまうともはや文化の領域で自分とは関係ない世界のものと思ってしまったら人生の楽しみは半減します。 このコラムは観客歴40年以上という篠原安心院(しのはらあじむ)さんが、独自の視点で作品を楽しむポイントや役者の話、作品の背景からチケットの買い方、劇場の席を選ぶ方法などがわかる古典芸能をすんなり楽しむためのポイントを優しく親切に教えてくれるコラムです。 安心院さんの厳しくかつ軽妙な文章を読めば、いつしかあなたも古典芸能通になれます。お楽しみに!
2010 年 5 月 のアーカイブ

Vol.160 文楽  「 別火 (べっか) 」

2010年5月30日(日)

  少し異なった話題ですが、文楽や歌舞伎の世界の楽屋裏で出る話の様なので、別の意図で書いた文章ですが、ここに収めます。

                                  

 旧約聖書「出エジプト記」にこんな事が書いてあります。「あなたは、仔山羊をその母山羊の乳で煮てはならない」。この禁忌(タブー)の一節は、本来的に牧畜とは無関係で、家畜を処理して食材として使用する慣習の無い我々日本人でも、情緒的に肯定できる規則に見えます。「この山羊のクリーム煮は、仔山羊の肉を母親から搾ったミルクで煮てあるので、特に美味しいですよ」と言われたら、果たして僕は箸が付けられるだろうか。願い下げにして欲しくなるだろうと思う。処で、ユダヤの世界では、この禁忌が拡大解釈の一途を辿っているらしく、今や、肉類とミルクを原材料とする酪農製品とを、一緒に食べてはならないと迄なって居るとか。つまり、朝食にハムやベーコンのお料理と牛乳やチーズ、カフェ・ラテ等は、一緒には食べられないと言う事になります。もっと言えば、ホテルやレストランはおろか一般の家庭でも、調理器具やガスレンジ等が、お肉用とミルク系用の二種に分けられ、厳密に使い分けられて居ると言われます。選民である事を守るのは大変な事だと思いながら、これを我が社会では、「別火(べっか)」と言うなとも思ったものです。

 

 その我が国の“別火”は、神道の伝統の中で育ったものなのだと思われますが、どう言う形で残って居るかと言えば、例えば能や歌舞伎で翁を舞う人は、何日か前から、別火・物忌みの精進潔斎を守ると言う形の様なのです。この状態(つまり別火・物忌みを守る事による精進潔斎)を、端的に一言で“別火”と呼んで居るとの事です。つまり、使う火を別ける(通例の用に足す火と神聖な火とを別け、清い方の火を使ったもののみ口にする)のが基本の一つなのであろうと推測されます。文楽でも、翁と共に、手習鑑の菅丞相を遣う人形遣いが、別火を特に慎重に守ると言われています。何しろ相手は天神様ですから失礼があったら、罰が当たると言う事なのでしょう。処で、昔の名人達の芸談を読んで居るとこの別火が時々出て来ます。この場合は、物忌みの中の特に女性との関係が主題の様です。と言うのは、女性と事のあった翌日の床(ゆか)では、大夫にせよ三味線方にせよ、それが声や音に如実に出るものなのだそうなのです。巡業先で(と言う事は家庭を離れた時に)、一段語り終えた大夫に先輩や師匠が、「昨夜のお相手はどんな方でしたか」等、一見柔かい言葉付きとは裏腹な怖い顔付で、冷やかす見たいな話になります。本当に怖いのは、それがドンピシャで当たって居る事で、これが度重なると「貴様ら公演中は別火を守れ」と怒鳴られるのだそうです。だから、若い大夫や三味線方は、朝、楽屋入りの挨拶の時に、先輩や師匠に「昨夜は私別火を守りました」と聞きもしない報告をする輩が出て来るらしい。つまり昨夜は何も有りませんでしたと言う事を伝え、何とか難しい人達の機嫌を取って置こうとの魂胆からの発言な訳です。この時の、若い人の言う事を「おべっか」と呼び、媚び諂いの言葉と心得るし、世上使われる「おべっか」の語源はここにあるのだと続きます、はてさて、これは本当なのかしら。

 

 ユダヤの世界では、以後も解釈の拡大は続いる様で、最近に至り「卵と鶏肉を一緒に食べては駄目」となったとか。親子丼が駄目となると、お気に入りの店の二つ三つ有る身としては、やや困惑します。その内、子持ちカレイは駄目、鮭とイクラの北海丼も駄目、鱈チリに白子を入れるのはもってのほかと来そうです。ユダヤ人で無くて本当に良かったと思います

。

 おべっかの方は、業界の泰斗の書物に出ていましたので、一概に眉唾とは言いませんが、話として、どうも上手く乗せられた様な気もします。それより、語源も定かならぬままこの言葉が死語になりそうで、こちらの方も気にかかる処であります。

 

 さて、次回からは、お待ちかねの、個別の演目を個別に取り上げて、少し丁寧に解説を加える事に致します。

posted by 篠原安心院 at 09:44PM
コメントはまだありません »

Vol.159 文楽  「 物語と口説(くどき) 」

2010年5月17日(月)

 

 “かたり”とは本来、物事や事件を伝える事、出来事を詳しく述べて相手にその全部を聞かせると言うのが、元々の意味です。これがかなり転化して、無い事をさも有りそうに話して騙す事を“騙り”と言う様になりましたけど。さて浄瑠璃自体、太夫は歌うとは言わずに語ると言います。つまり浄瑠璃が語り物である訳です。そしてその盛り上がりの場面で、またまた「物語」が出て来ます。この物語の場面は、話が大きく進む事もあり又ひっくり返る時もありで、聞いて居て気の抜けない場面となりますし、ある時は複雑な三味線が付いたり又ある時はツケ入りの大見得に繋がったりと多くの工夫が施されて居りますので、見ていても面白い場面となって居るのが通例です。「いざ物語らんと、座を構え」等と物語の始まりを教えて呉れるのが多い様です。

 

 立役(男性の登場人物)の物語の場面を幾つか思い出して見まししょう。「源平布引滝」の実盛は、白旗を持って泳ぎ寄った小まんの片腕を斬り落とした顛末をそのまま物語ります、一方「嫩軍記」の直実は、自分の息子を身替りに立てたのを隠して、恰も敦盛を討ったが如くに藤の方と相模相手に物語ります。随分物語の内容と語る人物との関係が違うものなのです。一方、「忠臣蔵6段目」の勘平は、切腹をして手負いになってから言い訳を物語ります。同じ様に、「すし屋」の権太も手負いになってから苦しい息の中で経緯を語ります。それまで悪者だと思って居た人物が実は良い人であったと判るのを“もどり”と呼びますが、この権太のもどりは典型的に物語の形で明らかにされるのです。「千本桜」の狐忠信は、本物の佐藤忠信が出てきて仕舞うので居所が無くなり森へ帰りますが、生い立ちや鼓との因縁を狐言葉で語ります。これも物語の一種と言えるでしょう。

 

 女形の物語は、口説(くどき)と呼ばれます。殆ど例外無く良い曲が付いており三味線と相俟って聞かせ処となって居ますし、特にこの場合を「サワリ」と呼ぶ事も有ります。「堀川」のお俊は“そりゃ聞えませぬ伝兵衛さん”に始まる人気の口説がありますし、「天網島」の女房おさんは“あんまりじゃぞえ治兵衛さん”と思いのあり丈を語りますが、この両方とも恋人や夫と膝詰めで、語り掛けて行きます。「酒屋」のお園は、少し違い“今頃は半七さん、どこにどうしてござろうぞ”と、行灯に寄り添いながら一人で淋しく“くどき”を続けます。「合邦」の玉手御前は、これも手負いになってから長い口説が始まり、先の“もどり”の真情を吐露するに至ります。親父がこれを「オイ・ヤイ・オイ・ヤイ」と受けるのも印象的です。「帯屋」のお絹は、人前では夫の不行跡をかばいますが、二人になると、“私も女子の端じゃもの、大事の男を人の花、腹も立つし、悋気の仕様もまんざら知らぬではないけれど”と、女房の真情を吐いて迫ります。こうなるときっちりとした自我を持った近代女性に見えて来ますね。

 

 語りものである浄瑠璃の、そのクライマックスを形成する「物語」や「口説」、多分必ず重要な場面で出て来ます。床本を読んで予習をしながら、どこがそうかなと思ったり、有名なサワリが出てくれば、前後の関係等を頭に入れて実演での、出会いを楽しみにするのです。

posted by 篠原安心院 at 09:19AM
コメントはまだありません »

Vol.158 文楽  「 別れ 」

2010年5月9日(日)

  悲劇が多い浄瑠璃の物語では、何れ何らかの形での別れが出て来ます。心中の処で触れました近松の名作「曽根崎心中」は若い二人のこの世との別れになる訳です。これを彩るのが浄瑠璃の名文句でありまして、「この世の名残、夜も名残、死にに行く身を喩うれば、あだしが原の路の霜、一足づつに消えて行く、夢の夢こそ哀れなり、・・・」と続きます。別れが切羽詰って観客に迫って来るのです。

時代と趣向の処で触れました「菅原」では、格段に親子の別れが描かれます。二段目では、菅丞相と養女の刈屋姫の別れが出て来ます。三段目では、三つ子の父親白太夫と息子の一人桜丸の別れが語られます。四段目では、三つ子の一人松王丸と息子の小太郎の別れが涙を誘います。夫々全く状況の違う別れですので、太夫の語り方も三味線の響かせ方も、人形の遣い方も沢山の工夫がなされて居り、各々の別れを際立たせて居ます。

 

 「会うは別れの始め」と言う文句が在りますが、会った途端永の別れをしなければならない、そんな浄瑠璃もあります。「伊賀越」の沼津の段では、立場上敵同士になってしまった親子が、それこそ何十年ぶりに出会います。先に立場の違いが判りますので、二人共名乗れません。親父の平作は、息子の重兵衛に「親父さん」と言って貰う為にも、己が命を絶つのです。

「重の井子別れ」も、久し振りに出会った母と子が、その境遇の余りの違いに、母子の名乗が出来ないで別れます。その母親の愁嘆が見せ場となっているのです。「阿波の鳴門」のお弓は、巡礼となって居るわが子のおつると話をするうちに親子と悟りますが、夫への気兼ねもあって名乗れません。その内、行き違いでこのお鶴は父の十郎兵衛に殺されてしまうのです。

 

 全然趣向の違う別れもあります。「芦屋道満」の葛の葉は、阿部保名の妻で清明を二人の子として儲けますが、実は保名に助けられた狐なのです。この狐が姿を借りていた本物の葛の葉姫の出現に、夫や子を捨てて森へ帰って行きます。「三十三間堂」のお柳は、実は歳を経た柳の精なのです。人の女房となり、ここでも子供を儲けますが、三十三間堂の棟木が腐って居る事が諸方に祟っているので、あの柳の巨木を切って建替えろとのご託宣に、切られて仕舞います。そして夫や子に見送られて引かれて行くのです。この二つの例は、人間でない物を登場させ、人間同士の別れより、端的で且印象的な別れとして描き出すのに成功していると感心させられます。

 

 そうかと思うと、折角敵と面と向って会ったのに、何の彼のと理由を付けて“後日を期そう”と別れる段切れも多く見られます。「太功記十段目の尼ヶ崎」等が典型です。実録の方の結果を観客全員が知って居るので、殺し合いを舞台でさせない工夫なのかな等と考えたりします。

posted by 篠原安心院 at 04:42PM
コメントはまだありません »
  
  • RSS
  • 演劇・ミュージカル情報はこちら
  • PR

  • プロフィール

    篠原安心院(しのはらあじむ)
    古典芸能観客暦40年。
  • 最近の投稿

    • Vol.189  歌舞伎  「 ぢいさんばあさん 《二》 」
    • Vol.188 歌舞伎  「 ぢいさんばあさん 《一》 」
    • Vol.187 文楽  「 さわり (サワリ) 」
    • Vol.186  文楽  「 壷坂観音霊験記 (壷坂) 《二》 」
    • Vol.185  文楽  「 壷坂観音霊験記 (壷坂) 《一》 」
    • Vol. 184    「 お見舞い申し上げます 」
    • Vol.183. 文楽・歌舞伎 「 良弁杉由来 」
    • Vol.182 文楽  「 嫗山姥 (こもちやまんば) 」
    • Vol.181  古典音楽 「 ベートーヴェン 交響曲第三番 “英雄” 」
    • Vol.180 古典音楽 「 ベートーヴェン 交響曲第七番 」
  • 月別バックナンバー

    • 2011 年 5 月 (3)
    • 2011 年 4 月 (2)
    • 2011 年 3 月 (2)
    • 2011 年 2 月 (3)
    • 2011 年 1 月 (3)
    • 2010 年 12 月 (3)
    • 2010 年 11 月 (3)
    • 2010 年 10 月 (3)
    • 2010 年 9 月 (3)
    • 2010 年 8 月 (3)
    • 2010 年 7 月 (1)
    • 2010 年 5 月 (3)
    • 2010 年 4 月 (3)
    • 2010 年 3 月 (2)
    • 2010 年 2 月 (3)
    • 2010 年 1 月 (5)
    • 2009 年 12 月 (3)
    • 2009 年 11 月 (4)
    • 2009 年 10 月 (5)
    • 2009 年 9 月 (4)
    • 2009 年 8 月 (4)
    • 2009 年 7 月 (4)
    • 2009 年 6 月 (4)
    • 2009 年 5 月 (4)
    • 2009 年 4 月 (5)
    • 2009 年 3 月 (4)
    • 2009 年 2 月 (4)
    • 2009 年 1 月 (5)
    • 2008 年 12 月 (4)
    • 2008 年 11 月 (4)
    • 2008 年 10 月 (5)
    • 2008 年 9 月 (4)
    • 2008 年 8 月 (4)
    • 2008 年 7 月 (5)
    • 2008 年 6 月 (4)
    • 2008 年 5 月 (5)
    • 2008 年 4 月 (4)
    • 2008 年 3 月 (4)
    • 2008 年 2 月 (4)
    • 2008 年 1 月 (5)
    • 2007 年 12 月 (4)
    • 2007 年 11 月 (5)
    • 2007 年 10 月 (4)
    • 2007 年 9 月 (4)
    • 2007 年 8 月 (5)
    • 2007 年 7 月 (4)
    • 2007 年 6 月 (4)
    • 2007 年 5 月 (5)
    • 2007 年 4 月 (4)
    • 2007 年 3 月 (4)
@
お問合せ
広告出稿
運営会社
当サイトのご利用について
Copyright(C) 快適人生広場 All rights reserved.