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古典芸能入門

歌舞伎、文楽、落語に能、クラシックコンサートといわれると、なんだか敷居が高いと思っている方もいるでしょう。 でも歌舞伎にしても文楽にしても昔は庶民の娯楽でした。芸が芸能になり芸術になってしまうともはや文化の領域で自分とは関係ない世界のものと思ってしまったら人生の楽しみは半減します。 このコラムは観客歴40年以上という篠原安心院(しのはらあじむ)さんが、独自の視点で作品を楽しむポイントや役者の話、作品の背景からチケットの買い方、劇場の席を選ぶ方法などがわかる古典芸能をすんなり楽しむためのポイントを優しく親切に教えてくれるコラムです。 安心院さんの厳しくかつ軽妙な文章を読めば、いつしかあなたも古典芸能通になれます。お楽しみに!
2008 年 9 月 のアーカイブ

Vol.82 さくら

2008年9月25日(木)

 今回は、Vol37の「息を詰める」と同様に他の機会に書いたものを転載します。ですから口調が少し違います、この点ご容赦下さい。

 完全に想定の範囲内のみの論展開に、半分眠り掛けていた僕の処に主催者からメモが廻ってきた。「質疑応答の時に是非ご発言下さい」。ありゃと思い、シンポジュームのそれ迄の動きを思い出しながら、コメントの用意を始める。この様な“さくら”の発言者の確保はお互い様で、だから時に頼まれる。どうかすると、手も挙げないのに司会者が名指しで呼んで来る事もあって剣呑なことこの上無い。処で、この“さくら”であるが、多分柴又の寅さんの世界に端を発する言葉だと思っていた。どうも違いそうである。

 上方の歌舞伎小屋に「太郎桟敷」と呼ばれる一画があり、ここの場席は一般に売られなかったらしい。誰が入るかと言えば、仲間内で手隙の者が入り掛け声だの誉め言葉だのを掛けたとの事。この一画の席及び仲間誉めの声を掛ける人達の事を隠語で「さくら」と呼び習わしたと古書にあると、何処かで読んだ記憶がある。つまりこの言葉の語源も古典芸能の世界と言う事になる。その他種々の語源説があるらしいが、一番判り易いのは、この使用法との事である。最近は大向こうの掛け声を掛ける人達がセミプロ化しており、集団が東京に三つある。東京の役者さんが、京都や大阪で公演をする際には、費用等一切役者さん持ちで、出張掛け声を請け負う人も居るとかで、そうなるとこれも「さくら」と呼ぶべきなのかしら。

 「荒川の佐吉」は、真山青果の凡作とは何人もの人の言う事だが、見方に依っては大アマの股旅悲劇で、臭い芝居に近く演って呉れると載せられて仕舞い泣かされる事もあるが、サラサラ演ってくれるとしらけかえる事もある、そんな芝居。新国劇の島田正吾が、何回も一人芝居で取り上げていたから、そこそこ人気は在るのだろう。その幕切れ、場所は向島の堤、満開の桜の夜明け時分、別れがたい子供に名残を惜しんで去って行く、(子供)「お父っつあん」「おお、坊も達者でな、どなたもご免なすって」 堤を下りて花道の七・三に掛かったところでもう一度「お父っつあん」、思わず振り返って舞台の子供を見つめ、思い直して「やけに散りゃあがる」一瞬の思い入れがあってここで柝の頭、
 「・・・桜だなあ」。
気を取り直し花道の向うを見据えて足早に引っ込む、悪くは無いのだが。

 この芝居を前進座が上演した時のお話。主人公の佐吉は、近代の世話物の名人と謳われた中村翫右衛門、熱演が観客の共感を呼び何人もの人が泣いて呉れる様な日ばかりでは無く、どうかするとシンとしらけ返って反応の無い日もあったらしい。そんな日には、弟子達の誰かが三階席へ出向いて、折り目節目に景気付けの声を掛けて居た。
ある日、幕切れの花道七・三で、翫右衛門の佐吉が「やけに散りゃあがる・・・」ここでチョーンと柝の頭、すかさず「成駒屋!」とぴったりの声が掛った。佐吉は、三階席の方へチラッと視線を走らせて、
 「サクラ・・・だなあ」。

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Vol.81 古典音楽「交響曲」

2008年9月18日(木)

 前回は、楽曲の形式としてのソナタ形式を見ました。今回は少し違えて、一つの曲全体を指し示す言葉としての「ソナタ」であります。
遣い方の、前回との違いは、同じ「ソナタ」と言う三文字が、片や形式と言う言葉と共に使われるのにたいして、曲全体を指す場合には「ソナタ」とだけ書かかれる処にあります。言わば、西洋古典音楽(所謂一般的な意味でのクラシック音楽)の一時期であった古典派の時代(18世紀中頃から19世紀初頭まで)の、最大の発明であったソナタの、もう一面のお話です。この楽曲全体を指すソナタと言うファミリーの中心は、交響曲なのです。

 「交響曲」とは何であるかと聞かれますと、何と応えて良いか一瞬迷いますね。答えは、「大規模な管弦楽で演奏されるソナタである」、実はこれで満点なのです。(序の薀蓄を言いますと、“交響曲”も同じ意味で使われる“交響楽”も森鴎外の訳語なのです)。

 前回、ソナタとはイタリー語で“鳴り響く”と言う意味であると申しました。その鳴り響き方は、単一の楽章としては「ソナタ形式」を取って出来上がるのですが、楽曲全体としては「ソナタ」と呼ばれる形で、響く訳なのです。(このソナタを言う言い方は、器楽のみで演奏される部分の事をそう呼んだらしく、ハイドンよりもずっと前から使われて居ました。現在は、これら古い使用方法と区別をする為に、「教会ソナタ」とか「トリオ・ソナタ」等と呼びます)。
さて、複数の楽章からなる構成を持ち、その最初の楽章が「ソナタ形式」で書かれて居る器楽曲の事を「ソナタ」と言うのです。

 その、曲の形式としてのソナタ形式を作り上げた古典派の時代、楽曲としてのソナタの代表である交響曲はどんな形で作られる約束だったのでしょうか。

 答えは、お好きな交響曲を思い出されると分かると思いますが、大概は四楽章構成ですね。大きくて立派な感じのする第一楽章、静かに緩やかに曲が流れる第二楽章、メヌエットと呼ばれる三拍子の舞曲の事の多い第三楽章、早い進みの第四楽章、こんな構成が、多分お好きな交響曲の外枠を構成しては居ませんか。
このうち、立派な感じの第一楽章が、前回のソナタ形式で作曲されて居るのです。時には、第四楽章もソナタ形式で書かれる事もあります。こう言う風に、第一楽章にソナタ形式を置き、複数の楽章の構成から為る管弦楽曲を、管弦楽ソナタと言う意味で、「交響曲」と言うのです。

 古典交響曲の創始者のハイドンは、100曲以上の交響曲を書いて居ります。モーツアルトも41曲を残して居ます。ベートーヴェンはずっと少なく9曲です。この三人の大先輩の、それぞれが残した大偉業に後輩達は悩みます。

 ベートーヴェンからして、先輩に楯突く形で、例えばメヌエットの第三楽章を、よりテンポの速い且表現の巾に広いスケルツォに変えます。第九では、人声を大々的に導入します。この様に、自分らしさを出すために苦労を重ねる事になります。
ベートーヴェン以後の人達はもっとプレッシャーがきつかったと思われます。ソナタ形式も崩されます。四楽章構成の管弦楽ソナタである交響曲の種々の約束も次々に破る人が出て来ます。古典に帰れと、昔の形式を墨守しようとする作曲家も現れます。この交響曲の大展開は実に楽しい結果を僕たちに残して呉れて居るのです。

 でも、クラシック音楽の最大の発明であり、故郷であるのは、ソナタ形式でありソナタなのです。それを思い乍ら、今日の演奏曲目をお聞きになって下さい。

posted by 篠原安心院 at 01:00PM
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Vol.80 古典音楽 「ソナタ形式」

2008年9月11日(木)

コンサートの案内やチラシを見ますと、丸で“知っていて当たり前”と言った調子で、幾つもの専門用語が並んで居ます。これ等の用語の一つ一つを全て拾い上げて丁寧に解説するもの、このコラムのお役目とは思いますが、音楽用語辞典が既にありますし(と言う事は、辞書が書ける位多くの業界用語があると言う証拠でもあります)、中にはさして重要で無いものもあります(と思います)ので、気が付いた処から少しずつ始めて見ます。

今回のテーマは「ソナタ形式」です。

ソナタと言う言葉は、コンサートのチラシに良く出て来ます。その内、同じ言葉としては指し示す内容がどうも大きく違いそうだと気が付くと思います。そうなのです、同じ楽曲の形式の或るものを示して居るのですが、ある時は一つの楽章の事の様ですし、ある時は一つの楽曲全体の事でも在りそうですね。今回は、その内一つの楽章の形式をさす場合のお話です。

ソナタと言う言葉は、イタリー語の「ソノーレ」から来たと言われます、持っている意味は「鳴り響く」と言う意味の様でして、言葉からは音楽の形式を想像する事は出来難いですね。音楽が徐々に進化して来た18世紀の中頃、進化した楽器や上手になった演奏者の集まりを使って演奏する楽曲が徐々に大きくなります。その内、単に長くするだけで無く纏った印象を持つ楽曲の作曲が試みられる様になります。そして、古典音楽の父と呼ばれるハイドンが大枠を固めたのが、一つの楽章の形式としてのソナタ形式なのです。(つまり同じソナタと言う文字を使って居ますが、ソナタ形式とソナタとは違って使われます、そのソナタ形式の方なのです)。

そのソナタ形式の特徴は、大きく見て三つの部分に分けられる事でしょう。最初のパートは、提示部と呼ばれます。此処にはその楽章の内容となる二種類のメロディー(主題)が披露されます。この二つのメロディーは、やや性格が違って作られます。一本目が活発なものでしたら、二つ目は歌う様に穏やかなものと言った具合です。違った性格のメロディーが二つ出てくるので、楽章に緊迫感が生まれますし、二つのメロディーが夫々に美しく聞こえます。
このメロディーの提示が済みますと次は展開部と呼ばれる部分に入ります。ここでは、提示された二本のメロディーを使って種々工夫を凝らした進行を図ります。時にごちゃごちゃして聞こえますが、又或る時には、ダイナミックな展開振りにワクワクする処でもあります。この展開部の終りに大きな盛り上がりが来る事が多いのです。
その次は、再現部と呼ばれ、最初の提示部のメロディーが多少お化粧を変えて再現されます。こうして、ソナタ形式は終わるのです。これに、プロローグ(序奏)だのエピローグ(コーダ)だのが付いて、もっと大きくなる事もあります。音楽の楽曲の形式としてのソナタ形式は、単純化しますと、以上の様な事になります。

ハイドンやモーツアルトの曲を聞いていますと、演奏する人に依って、全く同じ事の繰り返しをする場合としない場合とが出て来る事に気付かれると思います。これは、上記の提示部を機械的に繰り返すのが当時の約束でしたので、作曲家はその通りに楽譜を残して居ます。戦後レコード録音が始まった事でなるだけ短く演奏する要請がレコード屋の方から生まれた事と、観客を含めて忙しくなった事等で、これらの反復を省略する演奏家や指揮者が増えたのです。でも、最近の新しい動きとしては、今一度作曲家の意図に帰ると言うので繰り返す人が徐々に増えて居ます。

さて、ハイドンが外枠を決めて、モーツアルトが一時その極限迄発展させたソナタ形式は、次のベートーヴェンでこのソナタ形式に思想性が加味されいよいよ複雑精妙になります。ベートーヴェン以後の作曲家達は、これら大先輩の残した重圧と戦いながら、独自の世界を模索しますが、その時も形式としては先ずソナタ形式が頭に浮んで居た筈です。ソナタ形式を一部壊したり、新しく何かを付け加えたりして、先人たちとの違いを模索するのです。これはどこの世界でも同じ動きとも言えますね。

こんな事を考えながら、ソナタ形式で作られた楽章を、メロディーは二本あるかな、どこから展開部かな、等と追ってみるのも楽しいものなのです。

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Vol.79 古典音楽 「定期演奏会」

2008年9月4日(木)

これまで十数回西洋古典音楽(クラシック音楽)に関しての、お誘いの文章を書いて来ましたが、「定期で」とか「定期公演で」等と言う記述が何回か在ったと思います。今回はこの「定期公演」に付いて、一通りご案内をしてみようかと思います。

音楽家が、教会や貴族の庇護を離れて独立した個人の音楽家としての生活の維持を図った最初の人がモーツアルトであると言われます。彼は、当時の欧州文化の中心地であったウィーンに出て来ます。音楽教師の仕事もした様ですが、一番彼にとって重要な活動は「予約演奏会」であったのです。どんなプログラム構成でどんな楽団構成にして、その予約の方法は、などは多分分厚なモーツアルトの解説書に詳しく書かれて居ると推測しますが、作曲家で独奏者(彼のピアノ協奏曲は自身の演奏で初演されています)兼指揮者と言う、言わば万能選手一人が中心となったプロダクションであったのだと思います。そしてこれが後の「定期公演」の萌芽であったと考えられます。

今、首都圏にはプロの交響楽団(管弦楽団とも言いますが実態は同じです)が幾つあるか、実は詳らかには知りません、多分十指に近い数字では無いかと思われます。これらプロの楽団の全てが「定期公演」を行っているのです。

「定期公演」とは、文字通り定期的に開催される演奏会です。定期的とは、日取りと演奏曲目が決まっていて、一年に5~10回の演奏会が一塊になって居る形態です。この演奏会は基本的には、年間(時には半年間)のチケットを纏めて売り出します。行きたいなと思われたら、これら数回分の券を一度に購入する事になります。言わば予約を取るのです。席は、売り出しの折に決めた席がその定期の期間中自分の席として約束されます。当然の事乍ら会場のホールも期間を通じて同一です。後は、忘れさえしなければ、月に一度(位の頻度です)、いつものホールでいつもの自分の席で、コンサートを楽しめる事になります。

どの楽団にとってみても、この定期公演が活動の中心となります。従いまして、各楽団とも多くのお客さんに来て頂きたい(定期公演の会員になって欲しい)訳でありまして、種々の工夫を凝らす事になります。
多くの楽団は、複数の定期公演を持って居ます。そして、その定期公演のシリーズ一つ一つに、工夫の跡である性格付けや特徴付けが為されているのです。例えば、

①会場を変えて、お客の都合や好みに広く応じる
②週末シリーズを組んで、平日に来難いお客の要請に合わせる
③“名曲シリーズ”等、プログラムの性格付けに気を配り、初心者でも十分に楽しめる曲を中心にプログラムを組む
④定期公演の期間を半年にしたり、一年(例えば全部で9回)の定期公演を前期中期後期の三つ(三回ずつ)に分けて売り出し

たりと、
長期に亘り束縛されるのを避ける、そんな工夫の数々です。ですから多分ご自分の好みにあった定期公演がきっと見つかると思います。

定期会員になると良い事は、先ず定期的に素敵なオーケストラの演奏が聴けると言う点にあります。気に入ったホールで気に入ったオーケストラの定期ですから、これは安心して聞いて居られると言う訳です。いつもの自分の席でと言うのも悪く在りません。そして何と言っても大きいのは、知らない曲を演奏してくれる事も多いと言う事実です。知っている曲を定期で聴くのも、わくわくして楽しいものです。でも同じ位、知らない曲を聴き、新しい発見をするのも、大きな楽しみなのです。音楽の持つ多様な姿に驚かされますし、或いは名前だけ知っていて聞かず嫌いであった曲が、実はこんなに良い曲であったと驚く事も多いのです。
その他の特典は、ホールの会員に似て居ます。同じ楽団の他の公演の先行予約であるとか、割引であるとかです。

定期会員の継続は、同じ席での継続がお望みでしたら、期日に必要金額を払い込むと自動的に継続手続きがなされます。違う席で継続がお望みでしたら、前会員の為の席替えの期間中に手続きをします。
これらの手続き(前会員の継続関連)が終わって、席に余裕が出れば新規に募集を受け付ける事になります。大概はこの期間中に、かなりの数の人々が新規に加入する事が可能な状況に、今の在京の楽団の定期演奏会の会員数の状況は在りそうです。つまり例外を除いて、前会員のみで売り切れとはなって居なさそうです。また、ある定期公演のシリーズが始まってしまった後でも、済んだ公演分の代金を調整して、残りの期間(回数)の定期会員になることも、同様に可能なのです。

また、上記の何れもが終わってしかも席に余裕のある場合には、一回券の発売も為されます。ただ、この場合には良い席は定期会員が占めて居りますので、あまり良くない席である事と、一般売り出しですので若干値段が高くなる事があるのを覚えて置いて下さい。

以上、何かでご縁のあった楽団とか、気に入ったホールでの催しであるとか、何か切っ掛けがありましたら、是非定期公演の会員になる事をお薦めする次第です。

posted by 篠原安心院 at 01:00PM
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