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古典芸能入門

歌舞伎、文楽、落語に能、クラシックコンサートといわれると、なんだか敷居が高いと思っている方もいるでしょう。 でも歌舞伎にしても文楽にしても昔は庶民の娯楽でした。芸が芸能になり芸術になってしまうともはや文化の領域で自分とは関係ない世界のものと思ってしまったら人生の楽しみは半減します。 このコラムは観客歴40年以上という篠原安心院(しのはらあじむ)さんが、独自の視点で作品を楽しむポイントや役者の話、作品の背景からチケットの買い方、劇場の席を選ぶ方法などがわかる古典芸能をすんなり楽しむためのポイントを優しく親切に教えてくれるコラムです。 安心院さんの厳しくかつ軽妙な文章を読めば、いつしかあなたも古典芸能通になれます。お楽しみに!

Vol.163 古典音楽  「 バッハ 音楽の捧げ物 」

2010年8月20日(金)

昔、未だ若かった頃、長く西洋の古典音楽を聴き続けた人は、結局最後に誰の曲に行き着くのかな等空想した事があります。どうも、その年頃に近づきつつある感じがして来て居ますが、今、この質問を受けたら「バッハかモーツアルトでしょう」と答えるのに躊躇は在りません。ですから、この個別の曲目のご案内をバッハから始めたとも言えるのです。このバッハですが、学校の教育課程の中の音楽鑑賞の時間等で、例えば、どの解説書にも極め付きの名曲とされて居るオルガン曲の「トッカータとフーガ・ニ短調」等を聴かされますと、フーガの部分が始まった途端、何が何だか判らなくなり、つまりは「バッハはややこしい、難しい」と結論付けて仕舞い勝ちです。そしてそのまま、食わず嫌いで、時間が過ぎると言う人が大勢居そうです。そこで、そうで無い印象を持って頂けるかも知れない曲として二曲ご紹介致しました。そのバッハの三回目は、「音楽の捧げ物」を取り上げます。

 

 当時のドイツの大国プロシアの王様であったフリードリッヒ(大王と呼ばれて居ます)は、実はフルートの奏者でも在りました。この王様の宮廷楽団に、バッハの息子の一人であるエマニエル・バッハが就職して居まして、ある時、大バッハが表敬訪問したらしいのです。王様は、或る主題を彼に提示して、それを素にフーガの即興演奏を求めました。こんな事は、作曲家に取っては、当時言わば日常茶飯事でしたので、難なく為遂げますと、王様は大変に喜ばれたらしいのです。そこで彼は、地元に帰って後に、更に同じ主題を使って幾つかの曲を書き加え、大王に献呈したと言われます。ここからこの曲の題名「捧げ物」が由来する訳です。

 

 曲は幾つもの小さな部分に分かれて居まして、どう勘定するかも難しい処です。と言うのも、全体としては組曲風に纏まって居る数曲の楽曲の内、楽器の指定があるのが三曲のみで、且、演奏する順番も定められて居ません。ですから、演奏者の解釈に依り種々の演奏が可能なのですが、殆ど決まった順で演奏されますし、楽器の編成も、フルート・ヴァイオリン・チェンバロ・チェロ等の室内楽風にするのが普通の様です。王様の事を慮ってか、フルートがとても印象的に活躍致します。後半にトリオ・ソナタと呼ばれる部分が来て、最後に「永遠に続くカノン」と呼ばれる短い部分で終わります。

大王の主題は、冒頭にチェンバロで提示され、同じ主題が度々出て来ますので、直ぐにそれと判ります。ゆっくりとした内省的な主題です。この主題を使って続けますので、曲全体が静かな印象の穏やかな表情を見せて呉れます。そこにはバッハの後輩達が好んで展開した、絶望も無ければ悲哀も在りません。歓喜の爆発も無ければ、怒りの絶叫とも無縁です。

曲の成立のエピソードを考えれば、大王への深い感謝と大きな敬意に満たされて居ますと言うのが、解説書の説く事ですが、別に大王が居なくてもこの曲の素敵な姿は誰にでも感得可能な世界だと思われます。朝になれば日が昇り、秋になれば実りを約束して呉れる自然に対する感謝の曲として聞いても一向に構わないと考えます。

 

 所謂モダン楽器に依る名演として、ニコレのフルートとリヒターのチェンバロの盤を長く愛聴して居りました。最近は古楽器に依る演奏の方が主流かと思います。アーノンクールやクイケンの盤も楽しく聞けます。

夜が長くなって来た頃、この曲で書斎を満たし、静かに寝酒を傾けるのは、何とも気持ちの良い瞬間なのです。



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この投稿は 2010 年 8 月 20 日 金曜日 8:46 AM に 未分類 カテゴリーに公開されました。 この投稿へのコメントは RSS 2.0 フィードで購読することができます。 コメントを残すか、ご自分のサイトからトラックバックすることができます。

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